戯言と作品レビューや分析のブログとその時の思いつき。
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 90年代前半のアニメを今見ると、そこには「セル」アニメとしかいいようがない色調・色彩や世界観があることに気が付く。初期のデジタルアニメのギラギラした色彩はわかりやすいけれど、どれだけデジタルアニメが「セル」を模倣しようとしても、いわゆるセルアニメとは、決定的な何かが異なっている。

 セルを重ねるという事によって生じる奥行き、レンズで撮るという事で生まれる微妙な歪み、色の抜け方、そういった物理的な特性に起因しているのかもしれない。色の発色もそうだし、アナログに特有の「透化光」、デジタルに特有の多彩な合成技術といった技術面の影響。ともかく受ける印象が違う。それに加えて、物理的な制約ではない様式の違いもある。

 『巨人の星』を見ると、あまりにも今と違う映像文法・文体で作られている。タッチをつけた線。もちろん、スタジオによっても違う。虫プロ、タツノコ、東映動画。日本のアニメスタジオ数あれど時代に応じて数種類のグラデーションが描ける気がする。

 他にも、使われている技術の流行廃りがある。画面の全体の8割が透過光で作られているかのような画面。これは充分に美しい。けど、おそらくはきっとこの感覚を今作れといっても、作れないのだろう。「なんでも鑑定団」とかで「骨董品のツボがある時代のある工房でしかできない色味をしていて、今、それを再現しようとしても出来ない。失われた技術だ。」みたいな解説を聞くけど、まさに同じだ。

 テレビアニメやジブリのデジタルアニメ化などを見ていると、セルアニメの模倣をデジタルアニメ化しようとしているように思う。対極にいる作り手の一人が細田守だろう。 細田守はデジタルアニメの答えを見つけてしまったんじゃないだろうかという気がする。勿論、答えは一つだけではないにしても。

 『時をかける少女』のアニメ化で細田守という人を知って、遡って、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』を見た。現象的には、押井守の『パトレーバー2』に似ている。人気のある原作の映画化で、原作を半ば無視して(よく言えば作品の可能性の中心をすくい取って)、純度の高い映像世界を作り上げている所など。




以下、ネタバレこみで進行します。






 村上隆がルイ・ヴィトン店頭プロモーション用アニメ『SUPERFLAT MONOGRAM』の制作にあたったのが細田守なのだが、『デジモン』の方が何倍も映像の密度世界観の構築、すべてにおいて優れている(デジモンのショートリミックスがSUPERFLAT MONOGRAMとでもいえばいいんだろうか)。



 初めて『SUPERFLAT MONOGRAM』を目にした時は、その独特の色彩と浮遊感、にヤられたのを覚えているが、一度『デジモン ぼくらのウォーゲーム!』を見てしまうと、『SUPERFLAT MONOGRAM』がどうしても劣化コピーにしか見えなくなる。

 発売されているDVDは細田スペシャルとなっていて、彼の監督作品が二作品収録されている。劇場第一作と二作(=ウォーゲーム)となっている。

 これらは同じモチーフを持っているように思う。第二作・ウォーゲームはデジタルアニメなのだが、第一作はおそらくセルアニメだろう。私の気のせいかもしれないが、細田が表現したかったものはセルアニメという技術ではまったく再現されず、デジタルアニメでは恐ろしいほど再現されているように思える。

 セルには計算不可能なノイズが常に載っている。それが味になり深みになるわけだ。しかし、デジタルのぺらぺらの世界でしかできない作品世界がここにある。これは、デジタルでセルを再現しようとする試みとは全くの逆だ。

 もののけ姫移行のスタジオジブリと対比させると面白い。予断だが、当初の監督であった細田守はどんな『ハウルの動く城』を見せてくれたんだろうか。実際に完成された『城』の動きは宮崎駿以外の何物でもなく、大鑑巨砲主義という意味でのスタジオジブリ以外の何物でもない。

 ジブリのデジタルアニメといえば、忘れてはならないのは、『ギブリーズ エピソード2』だろう。今でもあのカレーの表面が頭に残っているが、そこにあるのは徹底したディティールアップの世界観だ。テクスチャを立体感をこれでもかと平面に盛り込んでいく。デジタル化によって失ってしまった喪失を、その喪失への拒否感から過剰に補填しようとするかのようだ。セルの豊穣さを享受してきたジブリならではといえるかもしれない(もちろん、高畑さんによる『となりの山田君』というディティールダウンの例もあるが、便宜上)。

 真逆なのが『ウォーゲーム』で、極限までディティールをそぎ落としている。『ウォーゲームでは』ミニマルで存在感の無い絵が確かに動いている。例えば線の色。顔の色。キャラクターデザイン。思わず「スーパーフラット」な世界と言いたくなる。この徹底したディティールダウンと、存在感の両立は3DCDワーク、2DCGワークの成熟とともに出現したものではないだろうか。(非商業的なアニメーションだったら、いくらでもあるかもしれないけど。)

 演出でいえば、あのふだんの生活という日常に溶け込むように世界の危機が迫っているという肌触りがたまらない。パソコンの向こう側だけで起こっている危機。私たちのリアリティの目前にあるのは、「飛行機雲」だけである。その意味を誰も知れない。

オウム的なハルマゲドン(第一世代オタク的幻魔大戦的ハルマゲドン)に象徴的な、日常を破壊するものとして非日常が用意されているのではない。
 いつもと変わらない日常の針が少しだけ狂っている。という感覚。現代の日本には核戦争の恐怖は無い。911の映像と、ハリウッドの映像がまったく同じモニターから並列的に流れる世界。確かに、今私たちがいる日常とは異なった「戦争状態」がどこかにはあるはずだ。しかし、そのリアリティの手触りが私たちには無い。

 宮台のタームを借りて「終わらない日常」とでもいってみる。「終わらない日常」は、従って、日常を突き破るという可能性を夢見させてくれる非日常がない事を意味している。祭りなき非日常=日常。それが『ぼくたちのウォーゲーム』の世界である。

 日常と非日常の境界を意識する事は70年代80年代っぽい。世界の手触りがあったとされる時代。『ウォーゲーム』はそれとは明確に異なっている。

 細田さんはそういう状況の中で生まれるべくして生まれた才能で、彼が表現しようとする世界の微妙なリアリティが彼の作品の中には刻み込まれている。

 もしかしたら、このリアリティの感覚は、10年後にも10年前にもわからないかもしれない。バブルという時代をすごしていない自分が、あの空気感とされるものをパロディとしてしか受け止められず、たとえば岡崎京子的な感性を時代性に基づいたものではなくて、恋愛関係の痛さという普遍的なものとして受け止めてしまうように。

 バブルという時代の軽さ、雰囲気を私は、岡崎京子の『PINK』から読み取る事ができない。正確にいえば、頭では理解できても、肌感覚としては理解できない。それはそもそもその感覚を持っていないからだろう。

 細田の作品も同様だ。今の時代の肌感覚が刻印されている。それは、90年代後半以降からの、例えば終わらない日常だったり、動物化だったり、セカイ系という言葉たちとも同じ世界観の元にある気がしてならない。

参考。

■wikipedia デジモンアドベンチャー

■ wikipedia 細田守

Webアニメスタイルの細田守特集


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