鋼の錬金術師 (1)
人気のあるマンガというのは結局の所、キャラクターが生きている。鋼の錬金術師は、十数人の登場人物が入り乱れて物語が進む群像劇である。その一人一人が個性的な「顔」を持っている。生活感があるというか地に足がついている。
主人公であるエドワード・エルリックは亡き母を蘇らせようとして失敗する。結果、弟の身体は失われてしまう。必死の思いで、自らの身体の一部を代償にして魂を鎧に定着させる。弟の身体を取り戻したい。これが主人公の動機である。
エドは研究を進めるのに都合が良いから、軍隊に所属している。一方、軍隊からしてみれば錬金術師という能力を軍事的に使えば敵を殲滅させるのも容易、というわけだ。自らの研究を進める中で、様々な事件に遭遇し、様々な人物に出会う。
決まりきった「敵」がいるわけではない。それに強さを求めて闘うわけではない。描かれるのは「状況」だけである。弟の身体を救いたいという単純な動機でも、行動を積み重ねる中で色々な人間関係ができる。
そういった人間関係のしがらみが、兄と弟の関係という小さな世界と、国と国という大きな世界を結びつけるノリになっている。自分自身の問題が世界の問題と直結するいわゆるセカイ系とは異なって、ファンタジーという想像力や暴力の中で、人がどのように生きて行こうとするのかが描かれている。
パーティーは一枚岩ではない。強大な敵を倒す為に一致団結しているわけでもなければ、血で血を洗う闘いの末に生まれた男の友情で結びついているわけでもない。一人一人がそこにいる必然性があって、利害が一致しているから「味方」になっているのである。
アメストリスとイシュバールというアメリカとイスラムを模した国が登場してくる。911、アフガニスタン、イラクと海の向こうで戦争が起こっている状況の中で描かれている。余談であるが、鋼の錬金術師はアニメ化されたが、その際に企画としてガンダムSEEDやエウレカセブンを企画/プロデュースした竹田菁滋が同じように携わっている。
政治的な状況を取りいれている作品と言えば、尾田栄一郎『ワン・ピース』もそうだろうか。そのどちらにもいえることだけど、決してイデオロギー臭くて読めないというものではない。
エドとアルという二人の兄弟は、「鋼の錬金術師」という世界への水先案内人でしかない。彼らを中心にしてみえる世界もあれば、そうではない登場人物達を中心にしてみえる世界もある。そういった様々な物語が絡み合って重層的になっているのが「鋼の錬金術師」の世界である。
オマケが楽しいのも嬉しい。アルが鎧の中でネコを飼っているという裏設定はかわいすぎる。十四歳だから男を内側に入れるのを嫌がってりしてね。著者の荒川弘という人が女性である事を知って、驚いたような納得したような。オヤジギャグが好きだからなあこの人。
カバーを外すと、これまたおまけでイラストが載っている。背表紙のキャラも特別版が書かれている。カバーでは主役級のキャラクターが描かれているわけだが、その裏ではその巻で死んだキャラが頭にワッカを付けて浮かんでいる。こういうキャラクターへの愛情が「鋼の錬金術師」という世界を支えているのである。
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