・レコードの針のノイズに味がある父のテープで聴くビートルズ
・修学旅行で眼鏡をはずした中村は美少女でした。それで、それだけ
・ラーメンの湯気のなかにはいつだってメーテルがいた
こういう短歌を作る人がいる。
僕たちが生まれた時には、もうテレビやマンガ雑誌が世の中にあふれていた。初めての恋をしたのは、テレビの中にいたアイドルだったかもしれない。学校でつらい思いをした時に支えになってくれたのは、ぼろぼろの紙の上に印刷されたマンガだったかもしれない。テレビドラマで看護婦の話があれば高校生は将来病院に勤めたいと思い、トレンディドラマがはやればそんなお洒落な恋がしたいと、片田舎で夢を膨らませる。それが、僕たちが生きている世界だ。
笹公人はマンガやテレビが一番イキが良かった頃に青春を過ごした一人だ。寺山修司の影響から作歌をはじめ岡井隆に師事をし短歌を学んだ。今も、短歌専門誌に限らず広く商業誌一般の中で短歌を発表し技術を磨き続けている。
彼の描こうとする世界にはマンガやテレビも現実も内面も妄想も全く区別が無い。その感覚は同時代を生き多様な物語を区別無く消費して受け取っている人間としては当たり前の感覚だが、一つのジャンルの中だけで表現し評価されるというのが当たり前なのに、そういう自由さを脅威に思える。
*
獣らの監視厳しき夜の森で鏡をはこぶ僕たちの罰
その髪のどこかに棲んでいる蛇を太らすための餌食になろう
頭上まで片足あげるピッチャーの魔球に挑む君のまなざし
喫茶店のコップの水に手をかざし沸騰させてたのしむきみは
*
笹短歌の魅力は、圧倒的にイメージを喚起してくる言葉と、現在世の中に流通している物語をすべて包み込んだかのような世界観の多様さ、その世界を一つの歌の中で、時には歌集という大きな広がりの中でを巧みに切りかえていくう際のめまい、それによるダイナミックな物語感など挙げればきりがない。
中世日本の貴族たちにとって、短歌を詠む事が政治だったという。世界の森羅万象すべてが未知の脅威であり、そこから生まれる不安を支配するは言魂であった。一つ一つの言葉があらわしている全く別のリアリティを三十一文字に編みかえる事は、全く別の世界観を作り上げようとする意思である。笹公人は現代という時代の歌人なのである。
*
『念力図鑑』『念力家族』笹公人の短歌BLOG
▼最新エントリ一覧
・つぐみの決意と自信::アニメ『かんなぎ』弟九幕「恥ずかしい学園ドラマ」 ・化学反応は起こるのか?::アニメ『かんなぎ』第八幕「迷走嵐が丘」 ・ストイックな意思::アニメ『かんなぎ』第七幕「キューティー大ピンチ! 激辛ひつまぶしの逆襲(後編)」 ・少女の恋心を描くということ::アニメ『かんなぎ』第六幕「ナギたんのドキドキクレイジー」 ・幸せな一時::アニメ『かんなぎ』第五幕「発現! しょくたくまじんを愛せよ」 ・キャラの魅力アニメ『かんなぎ』第四幕「シスターーズ」 ・学校という空間/ひぐらし的怖さ/沢城みゆきの底力::アニメ『かんなぎ』第三幕「スクールの女神」 ・アニメ『かんなぎ』各話のタイトルからわかるシリーズ構成 ・仁たちの日常の表現::アニメ『かんなぎ』第二幕「玉音アタック」 ・ナギと仁の出会いシーン分析・考察::アニメ『かんなぎ』第一幕 「神籬の娘」 ・『かんなぎ』の魅力について ・小さな鍵の物語 - 空の境界:「矛盾螺旋」 ・M/D 第4章 電化、磁化、神格化(1966-1976) 引用楽曲 ・M/D 第3章 メジャー・デビュー、帝王の完成(1956-1965) 引用楽曲 ・M/D 第2章「ニューヨークの速度とビ・バップ」(1945-1955) 引用楽曲