イントロが流れたあたりだと誰も笑う人はいない。けど、曲が進むに連れてどうしても面白いので、笑いがひろがっていく。マツケン・サンバにこんな破壊力があったとは今の今まで気が付かなかった。ありがとう!と隣にいた男の人が叫ぶ。車が坂の上から下に移動すれにつれて、思い思いの言葉を叫ぶ。
さすがに車に電飾はついていなかったけど、マツケンサンバが全ての儀式と感情をナンセンスな空間に跳ばしてしまう中で、車の動きに合わせて、泣きながら笑いつつ、ありがとう!おつかれさまでした!と思い思いに叫んで、手を叩く。拍手。は起こっては静まり、音が移動していく。坂道の下にまで音が移動していって、聞こえなくなったかと思うと、またどこからか始まる。とても広い空間、住宅もある、上空にはヘリが跳んでいる。そんな広い空間に拍手がしみ渡っていく。
大きな柳の木が揺れていた。ゆっくりと風に数百はあるだろう枝1つ1つが動いている。いくつものレイヤーが重なった、その枝の向こうから太陽の光が漏れている。視線をずらすと、昨日の嵐が嘘のように青空が広がっていて、秋の空の色を思いだす。「昨日、今日とこんなメリハリのついた天気にして、みんなを困らせて!」と、拡声機から夫人の声が広がる。
最後の最後まで壮大なドッキリ企画だったらどんなにいいだろうと思っていた。本人がいきなり笑顔でその坂道をかけぬけて、みんなが「死んじゃえ(苦笑)」とか馬鹿な事を言ったりして。もし、ネタばらしがあるならこのタイミングなんだけどなと考えてもそんな時は来るわけもなくて、マツケンサンバが、その淡い期待をつぶして走っていった。パロディのパロディなんてありえないわけで、笑ってしまう、その笑えるという事が楽観的な見方を否定して車は坂の下を走っていった。
無事に終了しましたーと坂道を男達が叫んで登って行く。苦笑が広がってまた、拍手が広がる。坂の両側に固まっていた人が、展開して目の回りが人で埋まる。制服を着た人から四十代や五十代の人まで、十分程度の時間を過ごすためにこの場所に集まってきた。
一晩明けて、空を見上げるといつもより大きな月があった。
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